2020年の国勢調査によると、65歳以上の高齢者のうち、約700万人が独居で暮らしており、今後もその数は増加すると見込まれています。
独居老人は自由で気ままな生活を享受できる一方で、健康面や孤独感、生活支援の問題など、さまざまなリスクを抱えているのが現実です。独居老人の現状、抱える課題、支援の方法について詳しく解説します。

独居老人の定義と増加の背景
「独居老人」とは、一般的に65歳以上の高齢者で、一人で生活している人を指します。配偶者や家族と同居せず、自立して生活を営んでいる高齢者を意味しますが、その実態は多様です。
独居老人の増加には、以下のような社会的背景があります。
核家族化の進行
かつてのような三世代同居は減少し、子ども世代は都市部に移り住むケースが増えています。
未婚率の上昇・離婚の増加る
一生涯を独身で過ごす高齢者も増えており、また高齢での離婚も珍しくなくなりました。
配偶者の死別
高齢になるにつれ、パートナーとの死別により一人暮らしとなるケースが増加します。

独居老人が抱える主な課題
独居での生活は自由度が高い一方で、複数のリスクが潜んでいます。以下に主要な課題を挙げます。
健康面でのリスク
独居老人は、体調の急変時に誰にも気づかれず、救助が遅れるリスクがあります。いわゆる「孤独死」がその最たる例です。また、慢性的な病気を抱えている方も多く、通院や服薬の管理が困難になることもあります。
孤立と孤独感
一人暮らしで人と接する機会が減ると、孤独や孤立感が強まり、抑うつ傾向が強くなることがあります。特に退職後の男性高齢者は社会との接点が急激に減る傾向があり、要注意です。
認知症の発見が遅れる
同居者がいないことで、認知症の初期サインに気づかれるのが遅れるケースがあります。物忘れや判断力の低下が進行しても、本人が気づかず、生活の質が著しく低下するリスクがあります。
家事・生活管理の困難
高齢になると掃除、洗濯、調理などの家事が負担になる場合があります。体力が低下し、買い物に出ることさえ難しいという高齢者も少なくありません。結果として、栄養不足や不衛生な生活環境に陥ることもあります。

独居老人を支える制度・サービス
現在、日本には独居老人を支援するためのさまざまな制度やサービスがあります。それらをうまく活用することで、安心した生活を送ることが可能です。
見守りサービス
自治体や民間事業者による「見守りサービス」は、独居高齢者の生活を見守る仕組みです。定期的な訪問や電話連絡のほか、センサーを使った見守り(冷蔵庫や電気使用状況のチェックなど)も進んでいます。
配食サービス
栄養バランスが偏りがちな独居高齢者のために、配食サービスが普及しています。安否確認を兼ねているサービスもあり、見守りとしての効果も期待できます。
デイサービス・サロン活動
地域の介護施設や自治体が主催する「通いの場」に参加することで、社会参加や運動機会の確保が可能です。孤独感の解消やフレイル予防にもつながります。

家族や地域、社会の役割
独居老人の支援には、制度やサービスのほかに、家族や地域住民、社会全体の関わりが不可欠です。
家族の支援
離れて暮らしていても、定期的な連絡や訪問は大きな安心材料になります。できれば週に1回程度の連絡を習慣にし、生活の変化や健康状態に気を配りましょう。電話やビデオ通話の活用も有効です。
地域での見守り体制
「向こう三軒両隣」という言葉がありますが、近所の住民同士で声をかけ合うことが独居老人の支えになります。町内会、民生委員、自治体による高齢者見守りネットワークが活発な地域では、孤立を防ぐ効果が高いことが分かっています。
民間・ボランティア団体の活用
NPO法人やボランティア団体による訪問活動、買い物代行、交流イベントなどの取り組みもあります。地域の「おたがいさま」の精神で支え合う環境づくりが求められています。

今後の課題と展望
今後、独居老人の増加は避けられないとされています。その中で、以下のような課題への取り組みが求められます。
ICT技術の活用
AIやIoTを活用した見守りや健康管理システムの普及が期待されています。
高齢者向け住宅の整備
バリアフリーでサポートが受けやすい高齢者向け住宅の供給が重要です。
本人の備えと意識改革
老後の生活を他人任せにせず、自ら備える意識も必要です。エンディングノートの作成や遺言書、成年後見制度の理解も含まれます。

独居老人の問題は、もはや個人や家庭だけの課題ではなく、社会全体で取り組むべき重要なテーマです。
健康の維持、孤独の解消、適切な支援制度の利用を通じて、独居でも安心して暮らせる社会を目指すことが求められます。
本人の意識と周囲の支援、そして地域社会の連携が重なり合うことで、高齢者が自分らしく生きるための道が開かれていきます。